すみくらまりこ

新着状況 フォーラム さ行の会員 すみくらまりこ

タグ: 

This topic contains 42件の返信, has 1件の返信, and was last updated by  mariko sumikura 10 ヶ月 2 週間前.

30件の投稿を表示中 - 1件目から 30件目 (全43件中)
  • 投稿者
    投稿
  • #166

    mariko sumikura
    キーマスター

    銀翅の蝶

                         すみくらまりこ

     真っ暗がりで、銀色の翅を思いきり広げてみせたら、それは帆のように軽く膨らんだ。光の方へ向けたら、背中をそうっと押されるような力を感じた。

     何処へ辿り着くべき旅なのかわたしには知らされていない。そして戻ることは定められていない。夢想だに許されていない。ただ静かに漠たる真空間を進んでいる。

     幸いにも朽ちることもないこの銀翅は、光を力に闇に吸われていく。あの青白い星の、あの場所では、いまもわたしを追跡しているはず。生きているという信号を送り続けている

    かぎり・・・

     砕け星の、その塵の、毳(けば)すらも、この翅に触れずにあれ。

    手を広げて止める物もない宇宙に、この蝶は進んでゆく。わずかな光を求め、感ずるかぎり、胸をはり顎をあげて、包んで放たれた掌の温かさに応えていくのだ。   

    #227

    mariko sumikura
    キーマスター

    遅桜

                  すみくらまりこ

    三千本の桜が
    ほぼ散り果てた
    夜久野の山里にあって

    かろうじて咲き残り
    そよ風にさえ震える
    花の房を見つけた

    愛しもうとふれると
    待っていたかのように
    風と一緒に散っていった

    わたしにも
    このように散らした花が
    あったかもしれない

    こころが
    美しく痛んだ

    #228

    mariko sumikura
    キーマスター

    ダマスクスの薔薇
           すみくらまりこ

    舞い女の眼が挑みかかり
    砂の男の気は抜けていた

    オアシスに囲まれた旧市街の
    迷路のなかの小料理屋

    旅商人にとって至福の夜、
    酒より酔わせるものがある。

    すでに積まれた朝摘みの薔薇
    自らの熱に蒸せている。

    夜明けに港へ、速駆け十里
    南仏行きの船が待つ。

    まだ夜の迷路は入り口
    挑めよ 舞えよ 香気を放て

    おまえこそ
    ダマスクスの薔薇

    #229

    mariko sumikura
    キーマスター

    透けた蝶
    すみくらまりこ

    たとえ力なくとも
    無色の翅はどんな意匠よりも美しい
    向こうを透かしながら翅を立てて
    おまへは花の芯につかまっている

    もう、飛ぶことを諦めたのか
    もう、仲間と語り合うのをやめたのか
    まだ本当の歓びをしらない、と
    空の果てまで行くのではなかったのか

    透明になることは
    全てから去りゆくこと
    そして
    おまへは詩人(うたびと)
    ほんとうの詩人(うたびと)

    #230

    mariko sumikura
    キーマスター

    薫香の里
              すみくらまりこ

     熱帯の濃密ないのちのやり取り、その競いがとめどなく深い森の中で収縮した。大ぶりの花は、香りのバリアを張り、隣のバリアに食込み、蝶を誘う。袋に蜜をしかけ、蟻を待つ植物、刺針を磨いて獲物を待つ葉、その長い潜み息。薫香の里はいのちの里だ。
    外敵から身を守るため滲ませる自らの樹液に侵される木質の多難な一生はどうだ。時を経て硬化し、濁の川に身を落とした沈香は、熱を与え薫じられて初めて妙なる香りを放つのだ。香積(こうしゃく)菩薩(ぼさつ)のみ言葉のように。そして安南にとれる極上の沈香はTAGARA(多伽羅)、そう黒沈香は伽羅と名付けられた。 (『安南幻想』より)

    香積菩薩
    彼の菩薩曰く、『我が土の如来は、文字の説無し。ただ衆香を以って、諸の天人をして、律行(戒律)に入ることを得しめたもう。菩薩は、各々香樹の下に坐し、この妙香を聞いて、すなわち一切徳蔵三昧(一切の徳を蔵せる三昧)を獲

    #299

    mariko sumikura
    キーマスター

    千歳の乙女        すみくらまりこ

    流れる黒髪束ねれば
    掴みきれない命の弾性
    手のひらに心地よく
    結いあげる力を込める

    襟ぬきの なで肩の
    透きとおる肌の白さに
    ともすれば襲われる
    それは美しい眩暈

    千々の思い襲ねて
    氷色の清しさ
    紅色の激しさ
    刻々と映すは心花

    ようやく鏡を手に
    姿絵をみる
    永久の乙女 京都

    千の歳に 磨かれて
    千の美が  今ここに

    #397

    mariko sumikura
    キーマスター

    Praying Flowers 東日本大震災犠牲者鎮魂詩集「祈る花」を電子書籍化しました。

    http://firestorage.jp/download/32c62f1384d7e0090216cef07fa12df37ed0f490

    ここでダウンロードをしていただけます。

    #450

    mariko sumikura
    キーマスター

    紙の女神         
    すみくらまりこ

    若狭の国つ御神に、
    ひとりの女神がおはした。

    西域から瑞雲にのり
    ようやく東端の島に
    静謐なる地を見出されたか

    しなびた乳にすがる赤子
    その母の涙が涸れたのを
    見かねて、小声で囁かれた

    「しっ、誰にも云うでないぞ」

    「ミツマタなる木があろう 
    その皮を剥いで束にして 
    それを水につけよ」

    「よくよく刻め、
     よくよく茹でよ
     よくよく混ぜよ」
     
    正直な女子だった
    子の食べ物と信じ
    混ぜつづていた

    そして女神は
    羽衣を枝にかけ
    御手で紙を漉き給うた

    「よく憶えておくべし
     重しをかけて乾かして、
     あとは知恵を尽くすべし」

    すると軽くて
    濡れても破れぬ
    美しい紙が何枚もできた

    女神のお告げは
    ほかの誰でもなく
    この母だけに授けられた

    今年も春祭り
    子供たちの明るい声が
    町内に響き渡る

    紙の女神は不老不死
    御歳は千五百を数え
    満悦の笑みを含みて

    いまもって
    岡太(おかもと)神社に
    村の豊穣を守り給ふ

    #465

    mariko sumikura
    キーマスター

    主夜神
         すみくらまりこ

    京都の鴨川、三条大橋東詰
    ここより江戸の日本橋まで
    東海道の第一歩が印された

    夜明けから日暮れまで
    歩いて次の宿を目指した人々は
    明るいうちにと急いだもの

    暗闇ほど怖いものはない
    悪人でさえ、更なる強手に
    極悪人すら、魔物を恐れた

    彼は、故あって遅れていた
    常夜燈の灯影のもとで
    妻が挟んだ守り袋を探る

    それはだん王様に
    切なる願を掛けてくれたもの
    道中の安全を護り給へ、と

    すると、
    山の端に宿場の灯りが
    ちらちらと揺れて見えてた

    主夜神の導き
    あな、有り難し
    星なき夜の物語

    #536

    mariko sumikura
    キーマスター

    涙のワジ
          すみくらまりこ

    風が泣いている。

    オアシスに刻まれている筋は

    涸谷(ワジ)だ。

    風が巻いている。

    金色の太陽に蔭るのは

    涸谷(ワジ)だ。

    河が流れていた

    遠い昔。

    今は砂が砂を食む。

    水よ、一粒の水よ。

    草よ、一本の草よ。

    生きとし生けるものよ。

    「失った時は戻らない」

    地球のつぶやきを耳に、

    わたしは涙の跡を見る。

    #954

    mariko sumikura
    キーマスター

    前照灯
       すみくらまりこ
    *
    *
    道は前へ進むためのもの
    *
    復興は道から
    雑草覆う地面に
    確かな線が引かれる
    *
    復興は道から
    両側に家屋並べと
    強く杭が打たれる
    *
    故郷へ戻る家族の
    前照灯が連なる夜がくる
    津波を知らない子供が
    新しい街を駆け抜ける朝がくる
    *
    道はさらに前へ進むためのもの

    #1281

    mariko sumikura
    キーマスター

    花の姉妹
    すみくらまりこ
    *
    *
    奔放な愛に生き
    誰にも傅(かしず)かない
    赤いひまわりのような
    姉だった
    *
    静かな愛に生き
    誰にも思われる
    白い月見草のような
    妹だった
    *
    妹は男との恋に破れ
    美しい男を求めていた
    高価な車で連れ去り
    自分のものとした
    *
    彼の不死を願った姉も
    彼の不老を願わなかった
    すっかり年老いてきた恋人
    すると部屋へ閉じ込めた
    *
    繰言をつぶやくばかり
    泣言を叫ぶばかり
    懺悔を絞るばかり
    するといつしか蝉となった
    *
    それが最初の男だった
    *
    夜明けになると
    美しい男を誘いにいく妹
    ばら色の爪は
    いつも整えられていた
    *
    まるで暁の女神のように
    サフラン色のガウンに
    光と輝きをまとっていた
    そして逞しい男をみつけた
    *
    狩りの得意な男だった
    腕のなかで妹はうっとりとした
    愛におごった彼は別の女に挑み
    その女が放った蠍の毒で死んだ
    *
    それが二番目の男だった
    *
    情熱の衰えない妹は
    新婚の床からも男を奪い去る
    八年間離れていても
    妻を慕い続ける男だった
    *
    これが三番目の男だった
    *
    *
    静かな月見草の姉は
    たったひとり美少年を愛した
    その少年は愛に満たされて
    毎日男らしくなっていく
    *
    姉の願いはただひとつ
    このまま変わらずにいてほしい
    この美しさを この寝顔が
    わたしのものである限り
    *
    不老不死の願いは
    聞き届けられた
    それは生を止めること
    丘のうえで永眠させること
    *
    姉は月の女神のように
    日が暮れて、朝が来るまで
    ずっとその寝顔を見て
    優しく額を撫でるのだった
    *
    それは最初で最後の男だった
    *
    *
    赤いひまわりの妹
    白い月見草の姉
    ふたりの愛の激しさと優しさは
    恋人たちを凌駕したのだった

    #1359

    mariko sumikura
    キーマスター

    近作五行詩をYOU TUBEにまとめてみました。お楽しみください。

    #1372

    mariko sumikura
    キーマスター

    文(かるた)
    *
    *
    あいゆへに
    かきつくす
    さしむけよ
    たちどころ
    なみうせめ
    はひりふね
    まえのほも
    やそゑんで
    おいぬるを
    われら

    #1465

    mariko sumikura
    キーマスター

    ペガサスをYOU TUBEにアップしました。英語、アラビア語つきです。お楽しみください。
    会員で動画作成または動画の作り方コーチを希望される方は、お知らせください。

    #1831

    mariko sumikura
    キーマスター

    友よ ~季美さんへ~   すみくらまりこ

    我らが学び舎が建て直されるということだ。ギターを爪弾いたウィーンの森も、図書館も、
    教室も様変わりすることだろう。我らがいたのは、たった三年間。交叉点ですれ違うくらいの
    時間だったのに、すっかりと紐帯は結ばれている。

    自由な校風にあおられるように、社会の不義を許さないという心の根が張った。人の意見を聴くという
    耳を持った。どの道を進もうと、もどれば荒神口に母校がある安心があった。そこでは、若き友の姿が
    幻のように残っているから。

    きょうは、その友の誕生日。お下げ髪を両方にくくり、くりっとした目のまなざしはまっすぐにわたしを見つめた。
    その真剣な表情はいまも変わらない。人の困ったことに、黙って見過ごすことのできない友だった。
    そして自分が辛いときには、黙って知らせない友だった。

    いつまでも美しく、健康であられるように。
    新しい校舎ができたら、みなで我らの「気」を注入しにいこうね。

    #2222

    mariko sumikura
    キーマスター

    ムーサの歌
         すみくらまりこ

    大地ゼウスを父にもち
    ムネモシュネーを母とする
    九人のムーサは女神です
    *
    美声という名の
    カリオペー
    それは叙事詩の女神です
    不老不死の神なれば
    筆の勢い留まらず
    英雄作り続けます
    *
    賛美という名の
    クレイオは
    それは歴史の女神です
    不老不死の神なれば
    巻物継いで物語り
    今日の事も綴ります
    *
    歓喜という名の
    エウテルペー
    それは抒情詩の女神です
    不老不死の神なれば
    心からのよき詩には
    絆(ほだ)されては泣いてます
    *
    豊満という名の
    タレイアは
    それは悲劇の女神です
    不老不死の神なれば
    時には無理にカタストロフィ
    仕立てて劇を盛り上げます
    *
    歌手という名の
    メルポメネー
    それは挽歌の女神です
    不老不死の神なれば
    哀しい歌を選んでは
    きれいな声で歌います
    *
    舞踏という名の
    テルプシコラー
    それは合唱の女神です
    不老不死の神なれば
    みな声そろえ和声つけ
    神々 賛美いたします
    *
    美女という名の
    エラトーは
    それは独唱の女神です
    不老不死の神なれば
    ばら色の微笑みいつまでも
    衰える事ありません
    *
    賛歌という名の
    ポルムニアー
    それは賛美の女神です
    不老不死の神なれば
    人の善意や善行は
    褒めてほうびを与えます
    *
    天女という名の
    ウーラニア
    それは天文の女神です
    不老不死の神なれば
    コンパスもって天の上
    あなたの位置を知らせます
    *
    九人のムーサが
    揃うとき
    それはそれは見事です
    *
    天変地異のなきように
    いましばらくは
    ムーサ達の平安を
    *
    大理石のお姿に
    祈りを捧げる
    わたしです

    #2228

    mariko sumikura
    キーマスター

    怒りの女神―エリス―
         すみくらまりこ
    *
    怒りは
    激情の裏返し
    女神とて例外ではない
    *
    誇りを捨てて傅いてn
    真実を尽くした後に
    裏切られた女神
    その名はエリス
    *
    軍神を父にもち
    夜の女神を母とする
    血にまみれた鎧着て
    真っ赤な炎の息を吐く
    *
    エリスの怒りは
    世界を覆すように
    からだは震え
    声は一段高くなる
    *
    深紅のくちびるは
    血の気をうしない
    涼しいまなこは
    血の気を帯びる
    *
    全ての神が
    招かれる祝宴で
    そこに呼ばれない
    怒りが沸騰点に達する
    *
    なぜなら不和厳禁の
    婚儀であったから
    エリスが投げつけたのは
    「黄金の林檎」ひとつ
    *
    「もっとも美しい
    女神にあげるわ」と
    かくて三女神の
    争い生じて・・・
    *
    ヘーラー
    アフロディテ
    アテネー
    それぞれが美を競う
    *
    判定を任された
    羊飼いパリスの
    懊悩はげしい
    「パリスの審判」
    *
    かくて
    それがもとで
    トロイア戦争の
    幕が切って落とされる
    *
    エリスは
    三人息子を産み
    それはポノス 労苦の神
    レーテー 忘却の神、アルゴス 悲嘆の神
    *
    エリスは
    ひとり娘を産み
    それはそれで
    混沌の女神となる
    *
    いま幸せな人々
    いま平和な国々
    少し慎んでいたほうが
    エリス母娘の怒りは買わない

    #2236

    mariko sumikura
    キーマスター

    海の女神―アンピトリテ―
         すみくらまりこ

    高々と
    天に捧ぐ
    血色の枝珊瑚
    海の秘密を
    開ける鍵
     *
    ポセイドンは
    大地神
    その誇りもて
    冷たい女神を
    諦めず追う
    *
    男神の怒りは
    大地を震わせる
    大神殿も崩し
    海も割れるほど
    *
    地の果て
    アトラスまで逃げる
    女神を追いかけて
    どこまでも探し出す
    *
    隠れ場所は
    イルカが教えた
    怖さと熱意に
    女神は愛を受ける
    *
    ポセイドンが
    欲したのは 
    海の優しさ
    その深さ
    *
    ポセイドンが
    愛したのは 
    白い砂を敷詰めた
    エーゲ海の青の色
    *
    柔らかい藻が
    揺れて眠る浅海
    愛しき魚が
    群れて遊ぶ深海
    *
    アンピトリテに
    美しい海を
    すべて任せたい
    安らぎを守りたい、と
    *
    かくて
    ポセイドンと
    アンピトリテは
    息子トリトーンをもうけ・・・
    *
    いまも
    荒れ狂う嵐も
    女神の青黒い瞳が 
    少し目配せすれば
    凪いでくるという

    #2330

    mariko sumikura
    キーマスター

    美しき砲撃―現代のアマゾネス

    女神アルテミスを
    奉じた部族は
    すべて女だった

    男は他部族
    強い遺伝子を求め
    孕んで戻った

    弓を引くため
    きりとった
    ひだりの乳房

    生まれてくる
    女児だけを
    厳しく鍛えた

    アマゾン川まで
    追われても
    意気は盛んだった

    いま、
    自由を求める
    女が戦う時代

    血は争えず
    強い女の詩人
    ここに集まれり

    美しく静かに
    打ちのめす
    言葉の一撃

    #2334

    mariko sumikura
    キーマスター

    ネメシスー復讐の女神

    その翼で
    どこまでも
    追いかけて
    復讐を遂げた

    その愛を
    踏みにじった者へ
    その愛を
    己へ向けた者へ

    ネメシスに
    なかったのは
    容赦という
    美しい徳

    容れることは
    己を無にすること
    赦すことは
    己を殺すこと

    天に刃向う
    驕った人間は
    誰だ
    どこだ

    怒りの鋳鉄を
    熔かしつづける
    女神の眼に
    炎が立上がる

    #2356

    mariko sumikura
    キーマスター

    桜の夜
     

    桜が咲きそろえば
    きまって雨が降る
    しばらくふり続く

    愛を分かりあれば
    きまって不在の時が
    横たわるように

    こんなに桜が
    咲いてくれているのに
    まして冷たい雨が
    降っているというのに

    どうして 
    どうして
    わたしまで
    安らかに眠れるだろう

    夜をとおして
    白映えの桜と語り合う
    珈琲を沸かし
    悲しい詩を訳す

    #2426

    mariko sumikura
    キーマスター

    コモの朝

    鐘の音が街を起こす
    わたしはバルコンで
    コモ湖を眺めながら
    詩を書き留めている

    夜が濃くなるにつけ
    ひとつ またひとつと
    星々の光りは増した
    家々の灯りも増した

    闇を飾ってゆくのは
    空に散らした星の珠(ビーズ)
    山に点在する灯の珠(ビーズ)
    湖をふちどる光の珠(ビーズ)

    詩の館から降りると
    光の波がに寄せきて
    水面を歩いている様
    浮遊の美しい幻覚に―

    暫らくは覚ますまい
    この一粒の中にいて
    美しさの一部始終を
    詩に封じてしまう迄

    窓から溢れる朝の陽が
    わたしの一日を祝する
    詩友との再会があった
    新な出会いに恵まれた

    はたして湖の底には
    不思議な泉が湧いて
    その効目が癒すのか
    世の些事を忘れ過す

    明日は悠然と起きて
    一編の詩を手中にし
    思い出と期待を胸に
    コモの朝を遊歩する

    #2448

    mariko sumikura
    キーマスター

    春の女神

    日本では
    女神が春を告げる。

    桜蜜を吸って
    女神が生きるのは
    たった十日余り。

    陽を浴びて
    命は命を求め
    心は心を慈しむ。

    残り花、僅か
    息つめて-

    桜は花蜜まで芳しい。

    #2454

    mariko sumikura
    キーマスター

    ムーサの歌
         
    *
    大地ゼウスを父にもち
    ムネモシュネーを母とする
    九人のムーサは女神です
    *
    美声という名の
    カリオペー
    それは叙事詩の女神です
    *
    不老不死の神なれば
    筆の勢い留まらず
    英雄作り続けます
    *
    賛美という名の
    クレイオは
    それは歴史の女神です
    *
    不老不死の神なれば
    巻物継ぎ足し継ぎ足して
    物語を続けます
    *
    歓喜という名の
    エウテルペー
    それは抒情詩の女神です
    *
    不老不死の神なれば
    まことよき詩に絆されて
    涙ながして泣いてます
    *
    豊満という名の
    タレイアは
    それは悲劇の女神です
    *
    不老不死の神なれば
    カタストロフィなど
    暇もてあまし仕立てます
    *
    歌手という名の
    メルポメネー
    それは挽歌の女神です
    *
    不老不死の神なれば
    哀しみこめて歌います
    亡き人思い歌います
    *
    舞踏という名の
    テルプシコラー
    それ 合唱の女神です
    *
    不老不死の神なれば
    タクトのもとに声合わせ
    神を賛美いたします
    *
    美女という名の
    エラトーは
    それ 独唱の女神です
    *
    不老不死の神なれば
    ばら色ひかる微笑みで
    いつも優しく歌います
    *
    賛歌という名の
    ポルムニアー
    それは賛美の女神です
    *
    不老不死の神なれば
    良いことすれば見つけます
    その名を褒めて称えます
    *
    天女という名の
    ウーラニア
    それ 天文の女神です
    *
    不老不死の神なれば
    コンパスもって天の上
    あなたの位置を知らせます
    *
    九人のムーサが揃うとき
    それはそれは見事です
    *
    天変地異のなきように
    不正な人為なきように
    *
    ムーサ達の平安に
    祈りを捧げるわたしです

    #2500

    mariko sumikura
    キーマスター

    ヴェールのマリア
          すみくらまりこ

    うら若いマリアは
    薄いヴェールの下で
    なにを思い沈んでいたのか

    美しい目を伏せて
    柔かい唇を結び
    なにを思い切ろうとしたのか

    まだ来ぬことを
    すでに諦めるかのように
    ことばも無くして――

    まだ会えぬ人と
    もう別れようとするように
    微笑みも無くして――

    出でよ その白い頬を温める手をもつ人よ
    いままでどこにいたのだ
    なにをためらっていたのか

    あなたがヴェールの襞を
    ひとつ抓んでそっと上げなければ
    内と外の壁は取り払われないものを

    #2647

    mariko sumikura
    キーマスター

    ルーマニア素描

    偽ガイド

    ブカレスト空港についたのは深夜だった。翌朝にクラヨバへ詩祭から送迎車がくるということで、安心して就眠した。そして、ロビーで待合せ、時間通りきてくれた。ブカレストの観光名所リストの英語版をみせ、どこへったら行きたいですか?と聞いてくれた。美術館を所望した。

    「明日はどこへ行きたいですか?」「今日中にクラヨバに行きたいのです」「いいですよ、そのホテルはどこですか?」ふとおかしな気がした。「あなたはCさんですよね」「いえ、朝に従兄から頼まれてきたんですよ」いよいよ怪しい。
    そこで日本語ガイドを通じて詩祭主催者に電話してもらおうとガイドの電話を借りて事情を話した。すると「それはおかしいですよ、いま詩祭のスタッフがロビーで待っています」とのこと。ホテルに戻るよう言ってくれた。そして無事に詩祭スタッフと合流できたが、偽ガイドは消えてしまった。

    平原を突っ切る

    三時間のドライブ。車窓には、どこまでもどこまでも続くヒマワリ畑。採種の時期なので、枯らした花は、たっぷりと夏を溜めて、平原を黒く染めている。

    トウモロコシも豊かな土壌をひけらかすように威張って並んでいる。ふとアステカの痩せた実入りのないトウモロコシが思い出された。

    やはり食糧が一番大事、これを忘れると国は危機に陥る。自給できれば何も怖くない。ルーマニアの豊かな収穫に感じ入った。

    点景

    見渡す限り
    農地広がる
    ルーマニア
    牛連れ歩く
    農婦穏やか

    再会

    五年ぶりに会ったベルギー詩人も、メールでやりとりしているせいか、数日ぶりの気楽さで迎えてくれた。積もる話で数時間あっという間にすぎた。

    そのうち詩人が集まってきて賑やかになってきた。60名の詩人、うち45名は、世界中から集まっている。マケドニアのニコラ・マジロフ、背の高い好青年だ。ルカ・ベナッシは、イタリアの若手詩人、セルビア詩人、トルコ詩人、ロシア詩人、ボリビア詩人、若手も目立つ。

    友情の輪

    詩祭のよさは、気心と技量が知れるところかもしれない。何人も新しい友人ができてしまう。

    この中には重要な詩人は何人かいる。イタリアのナンバーワン、ダンテ・マッフィア。いつも一番乗りで朝食にくる。一緒にテーブルについて楽しく話した。招聘すれば来てくれる承諾を得た。「光織る女」を進呈したら、すぐに声を出して読んでくれた。

    開会セレモニー

    オープニングは美しいホールで行われた。クラヨバ文化芸術アカデミーが文学、科学、音楽に至るまで何人も授賞するセレモニーに立ち会った。

    土曜日であったので、街も活気に溢れていた。夜のオペラ劇場での朗読では、合間にオペラ歌手による独唱もあり花を添えられた。最後には合唱団の登場で初日の国際詩のリサイタルが締めくくられた。

    緑深い公園

    途中でお楽しみもあった。市民の憩いである公園。遊歩道にはミハイ・エミネスク詩祭の横断幕が高々と掲げられている。ミハイ・エミネスクの胸像の前で記念写真をとる。

    この池をゆったりと一周すること二時間。ボリビアの女流詩人とマリア・サンブラーノの話をしたり、コスタリカの詩人と話したりした。

    詩のリサイタル

    会場はオペラ劇場。映画「天井桟敷の人々」の舞台のように三階席まである歴史的な建築だ。そこで次々と舞台にあがり朗読する。さすが世界に知られた詩人ばかり、観客を呑み込んでおられる。

    前口上はいらない。その声、その詩が聴きたい。わずか数分の朗読なのに引き込まれる。言葉はわからないが、なぜか惹かれる。

    ここでは合間に室内楽の演奏があった。ヴァイオリン、コントラバス、チェロ、ピアノのルーマニア音楽はロシア音楽にも通じているのか哀感がこもり胸がいっぱいになる。

    若い奏者は三回もアンコールに応えてくれ、最後がポルムベルク作曲で日本では天満敦子さんの演奏で有名な「望郷のバラード」だった。

    望郷のバラード

    切なさ
    極まりて
    涙する旋律
    大地に染みた
    哀しみ癒やしぬ

    いよいよ私の名前が呼ばれ、プロフィールが紹介される。舞台に上がり一礼してマイクへの、向かう。今回は「花づな」を朗読した。少し挨拶をした。「今晩は皆様、わたしは京都からまいりました。クラヨバは文化的で伝統的で京都と似ていると思いました。この街がすきです。では花づなを読ませていただきます。八行の短い詩です。最初は日本語で、次いで英語で。」そして、暗誦した。ルーマニア語の朗読が添えられた。

    若草色の地に薔薇の柄の訪問着は、花づなに合わせたものだった。遥かな国での着物着装は、開催関係者や地元の人々そして詩人仲間の温かいもてなしに感謝を表せると思い持参していた。

    クラヨバ市庁訪問

    若く知性あふれる女性の市長は、この詩祭に支援を惜しまない。毎年この機会を楽しみにされている。今年は欧州文化首都に名乗りをあげているだけにエネルギッシュだ。

    詩人からの質問にいくつか答えたあと、逆に詩人たちに質問された。「この街をどう思われますか」、何人か答えて一段落したそのときだった。主催者のイオン・デオゴニスクが言った。

    「ここに日本から詩人がきてくれています。彼女はエミネスクの詩を日本語に翻訳して持参してくれました。そしてマイクが向けられた。

    わたしは答えた。「我々は京都と大阪からまいりました。エミネスクの詩を探したのですが、翻訳されていなかったので、わたしが訳させていただきました。日本語の「淋しいポプラの木の下で」をお聞きください」 下田喜久美さんが美しく朗読してくれ、拍手喝采を受けた。良い記念となった。

    夜の散歩

    クラヨバの
    旧市街には
    深更までも
    若き男女の
    話が滾りて

    トゥルグ・ジウの街へ

    クラヨバから七十キロ離れたトゥルグ・ジウでは、地元詩人が歓迎の宴を張ってくれた。そこでも朗読があり、「ギタリスト」を日本語と英語で読んだ。ルーマニア語訳がそえられた。詩友から「ジーニアス!」とと掛け声がかかった。ニコラも「ファドの詩、良かったよ」と後で話してくれた。

    ここは広々とした敷地にある伝統の木造建築になるホテルで別荘を彷彿とさせる。ダチョウ、ハト、ウサギ、クジャク、カモ、ニワトリのケージがプールサイドにあって何ともユーモラス、まわりの景色に溶け込んで野趣を醸し出している。

    夜はそこでバーベキューパーティーだった。民俗音楽の歌手が歌ってくれていた。ルーマニアではいつもそばに音楽があった。興にのって誰かが踊り始める。次々と加わる。最後には殆んどが輪に入り踊るなど、名残惜しく全プログラムの幕がとじられた。

    ルーマニア舞踊

    大地の恵み
    馬鈴薯甘く
    葡萄は円く
    踊りの輪が
    広がりゆく

    祭りの後

    詩友は翌朝の明け方にブカレストへ帰途についた。いく人かは別れも言えなかった。それもいい、いつかまた会うだろうから。すぐに会えることもあろうから。これで終わりではなく、これから始まるのだから。

    我ら残った詩人たちも、翌日バスでブカレストに向かった。もう降りるというとき、後部座席のトルコ詩人に後ろ手を出し、サヨナラを伝えた。彼らはわたしの右手を放そうとしなかった。大きい手はメティン、小さいのはムセル、強く握ったり、弱く握ったり、手で会話した。

    詩人の別れ

    詩人の別れー
    手を握りしめ
    その強さ弱さで
    思いを伝える
    真の手話なり

    ブカレストにて

    「夢の二重奏」の著者クレリア・イフリムがホテルに訪ねてくれた。詩のことを話したり、革命広場、アテネ音楽堂を案内してくれた。静か極まりない、クリスティナ・ロセッティの絵姿のようで女流詩人とはかくなるものかと思うほど、雰囲気がある人だった。

    古色蒼然としたルーマニア正教教会の入口で蝋燭の献灯がされていた。左側が故人への、右側が生きているものへの祈りだと教えてくれた。私は亡母と娘に一本ずつ献じた。ちょうどお彼岸の中日であった。

    革命広場では、大学の古本市があったり、現代アートの展示があった。アテネ音楽堂の前は、まったくもって平和な光景で、たくさんの鳩たちが深い芝生に身を埋めて昼寝をしていた。ここにもミハイ・エミネスクの立像もあって、花束が捧げられていた。

    赤い薔薇

    革命広場に
    命落とした
    闘士を偲び
    詩聖の像に
    薔薇の花束

    詩で交流しているせいで、クレリアとは初対面なのに手をつないでの散策。歩き疲れてイタリアレストランでジェラートの休憩をした。そして再会を約して別れた。

    最後の夜は近くのスーパーで惣菜や飲物を買い込み、部屋で打ち上げパーティーをした。細かい棘がいっぱいついた短い胡瓜、平べったい桃、可愛い小さな林檎が珍しかった。

    市場にて

    平たい桃に
    小さい林檎
    原種の味か
    富士王林は
    芸術品なれ

    すべてが終わり、心地よい疲れと、いっぱいの思い出を胸に、いまブカレスト発パリ行きの飛行機でこれを書いている。眼下には雲海がひろがり、その下には欧州の大地が広がる。皆の幸せを祈りたい。

    #2686

    mariko sumikura
    キーマスター

    御苑の秋
        すみくらまりこ

    松の素描

     御苑のなか、愛する人を探すように歩き回り、そうして一本の巨木を前にする。樹の肌は、大蛇の鱗のように一枚一枚に反りがかかっている。まとわりつく苔もその肌を守っているのか、苔のほうが守られているのか、ほとんど樹皮と同化している。
     大枝は何百年もの時の重みで下がりきり、地につきそうだ。それでも、どの松葉も針のように尖った先を上へ上へと向けている。

    楓の素描

     近くの楓に目をやると、これも古木で、大枝には五・六の小枝がついている。そのいずれも小ぶりの葉が重なりあって、夏から得たばかりの緑を濃くしている。時代祭の行列が通る頃には、幾枚かの紅葉を兆すのだ。葉のふちからだんだん内へと赤くなってくるのだ。肌寒くなった夜が明ければ、一気に染め上げられる。
     しかしその根元には酷い洞があるのを誰が知っているだろう。この樹全部が水を吸いあげ、樹液を葉先まで行き渡らせる。そんな力はどこから来るのだろう。命とはそんなものなのだ。無邪気な枝にそこまでの深慮はない。その枝も互いの赤を競うことに夢中となる。それでよい。それでよいのだ。春には、少し離れて実生の苗に一枚の葉が頭をもたげる。

    #2689

    mariko sumikura
    キーマスター
    #2701

    mariko sumikura
    キーマスター

    刺繍師の恋
           すみくらまりこ

    栄えと滅びを知り尽くす
    円熟の都ベネチアの運河は
    レースの模様の複雑さ
     
    ある刺繍師の新しい技
    「空中ステッチ」は
    刺繍台の呪縛を離れて
    自由な愛を求めすぎた
     
    針一本と糸一本で
    浮かし出した模様は
    幾何学の恋ごころ
     
    白い糸は必ず大運河へと
    繫がっているのだから
    白い糸は必ず底無しの海へと
    繫がっているのだから

    二人が逢えないはずがない
    線と線は幾重にも交差し
    結ぼれは出会いの広場となる
     
    互いに擦り寄ってくる
    二艘のゴンドラ
    その櫂の先のしずくよ
    不滅の言葉となっておくれ

30件の投稿を表示中 - 1件目から 30件目 (全43件中)

このトピックに返信するにはログインしてください。